2016年1月22日金曜日

大学院健康社会システム研究科 博士論文公開発表会




日時 2016年1月22日 16:00~18:00
会場 本学 1号館地階 階段教室3
司会 須藤 諭 教授

 審査委員会主査である須藤諭教授の司会のもと、お二人の博士学位論文公開発表会が開催されました。

1.福井啓太 氏
建物環境における水に起因する臭気の実態に関する研究

2.今井正樹 氏
排水再利用施設における設計及び維持管理に関する研究


1.福井啓太 氏
 論文題目「建物環境における水に起因する臭気の実態に関する研究 」  

<論文要旨>
 生活環境における悪臭については、昭和42(1967)年制定の公害対策基本法において、典型公害の一つとして規定され、昭和46(1971)年制定の悪臭防止法で特定悪臭物質の濃度規制が開始された。しかし、物質濃度による規制では、指定外の物質や複合臭気には対応できなかったため、平成8(1996)年の法改正によって臭気指数による規制が導入され、以来、臭気問題に関する世論が高まりを見せている。この様な社会背景において、本研究は、実態解明が遅れている建築環境における水に起因する臭気について、液相と気相との臭気の関連性から検討を進めたものである。
  第1章は「序論」と題して、建築環境における水に起因する臭気の問題を整理し、本研究の目的と課題内容を明示した。
  第2章「臭気の発散現象及び研究の動向」では、水中に溶存する物質による臭気の発散現象の評価を「官能試験における平衡相当値」及び「物理化学的測定における平衡相当値」として評価することを提案した。
  第3章「浴槽水の臭気」では、実際の浴槽水を採取し測定実験を繰り返した結果、入浴時の身体の洗浄方法によって、浴槽水の臭気に大きく影響することを明らかにした。また、水中の有機物含有量の指標であるKMnO4消費量は浴槽水の臭気にも関係があることを見出した。
  第4章「トイレ・寝具・下着の臭気」では、トイレ・寝具・下着に係る尿臭気が温度や希釈倍数によって変化する度合を明らかにした上で、尿が寝具や下着に付着した場合を想定した実験を行った。臭気物質の発生は繊維の種類によって大きく異なること、特に綿繊維の織り方は臭気物質の発生に強い関係があることを明らかにした。
  第5章「グリース阻集器の臭気」では、実際のグリース阻集器から試料を採取し、臭気発生に影響をする要因を探索した。その結果、総油脂量が大きく影響しており、グリース阻集器に流入する排水が阻集器内を撹乱し、臭気発生を増大させていることを明らかにした。
  第6章「浄化槽の臭気」では、浄化槽内のガス捕集および採水を行って、浄化槽内の臭気濃度に影響している要因を探索した。その結果、においセンサー値は水中臭気濃度、BOD濃度、H2S濃度、酸化還元電位ORPとの相関が高いことを明らかにした。
  第7章「建物排水管内の臭気」では、排水管内の臭気、屋上の通気・排気管の放出口の臭気、トイレ汚水管内の臭気の調査を行い、臭気濃度の実態を把握した。また、磁気処理装置の使用は、においセンサー値・アンモニア濃度値に低減効果があることを確認した。
  第8章「水に起因する臭気の濃度比較と対応策」では、第3章から第7章の気中・水中の臭気濃度やにおいセンサー値から、気中と水中の臭気濃度の関係を「官能試験における平衡相当値」、においセンサー値の関係を「物理化学的測定における平衡相当値」として評価した。
  第9章は「総括」と題して、本研究のまとめ及び今後の課題について述べた。


2.今井正樹 氏
 論文題目「排水再利用システムにおける設計および維持管理に関する基礎的研究」

 <論文要旨>
 人口減少社会の到来や産業構造の変化により、わが国全体の水需要は増大傾向ではなくなっているものの、都市域での水需要については、ダム等の水源だけでは十分に対応できない状況が発生している。一方、昭和50年代頃より都市用水としての排水再利用システム(雑用水道・中水道)が取り入れられるようになった。さらに近年では、水資源の有効利用の観点から建物における排水再利用システムも普及しつつある。本研究は、排水再利用システムにおいて課題となっている、配管の機能を阻害する「スライム障害」や、衛生上の問題を生じさせないための「消毒槽の構造」に焦点を当て、設計方法や維持管理の手法について検討したものである。
  第1章は「序論」と題して、本研究の背景と目的、解決すべき課題、および本論文の構成について記述した。
  第2章「排水再利用の現状分析と研究動向」では、排水再利用の現状について普及状況や関連法制度についてまとめ、排水再利用システムにおけるスライム障害や消毒槽に係る既往の研究動向を概観し、本研究の位置づけと必要性を確認した。
  第3章「配管内のスライム生成の基礎」では、スライム障害を水質面から取り上げ、配管内のスライム生成は生成速度が濃度に比例する一次反応の形態となることを確認した。スライムの化学的組成はC7~9H12~15NO4~6で示され、スライム発生は水中の栄養塩類としてN化合物、P化合物の存在が大きく影響していることを指摘した。
  第4章「配管材質・管内流速とスライム生成」では、配管材質、管内流速とスライム生成の関係について実験的に確かめた。スライムの付着量は排水流速が速くなるにしたがい減少するが、アクリル管、ステンレス鋼管、硬質塩化ビニル管、配管用炭素鋼管の順にスライムの生成量は多くなり、配管材質に影響されることを見出した。また、オゾン処理はスライム発生を抑制する上で、大きな効果があることを確認した。
  第5章「消毒剤の測定上の問題」では、消毒剤濃度を評価するに必要な測定条件を整理した。一般に用いられる携帯用簡易測定器による測定値にはばらつきがあるため、公定法との比較を行いながら測定することが必要であること、残留塩素濃度は水温による変化が大きいので、測定に際しては水温を20℃等に統一的に調整すべきことを示唆した。
  第6章「消毒槽の構造に関する検討」では、消毒剤の濃度保持のための消毒槽の構造について検討した。消毒剤としての残留塩素または二酸化塩素については、水温、水深、口径、容積比、水槽の大気開放・密閉状況が、水中の消毒剤の減少に影響することを明らかにし、最適な消毒槽の構造を提案した。
  第7章は「総括」と題して、本研究のまとめと今後の課題について述べた。